
広告に頼らず売上を伸ばしたい。価格競争から抜け出したい。そんな中小企業の課題を解決する鍵のひとつが、「ファンを育てること」です。
SNSは、企業と顧客が直接つながることができる数少ないツールです。InstagramやLINE、noteといった無料で始められるプラットフォームを活用することで、商品の魅力だけでなく、企業の“想い”や“姿勢”に共感してくれるファンを増やすことができます。
この記事では、中小企業でも実践可能なSNS活用術を、実際の企業事例とともにご紹介します。共感を軸としたマーケティングの利点とリスクを押さえ、顧客をファンに育てていくヒントを探っていきましょう。
目次
SNSでファンとつながる・対話する
SNSは、情報を「発信する」だけの場ではありません。むしろ、顧客と「対話する」ための場です。
中小企業が意識すべきはフォロワーの“数”よりも、どれだけ深い関係性を築けるかという“質”であるため、投稿テーマの選択が重要になります。顧客とのつながりを深めるテーマには、以下のようなものが挙げられます。
投稿テーマの例(ファンを育てる発信)
- 商品の開発ストーリー(なぜ作ったのか?誰が作っているのか?)
- スタッフの日常や思い(親しみと人間味)
- お客様の声を取り上げた投稿(信頼の可視化)
一方で、宗教・政治などセンシティブな話題や、一方的な売り込みばかりの投稿は、共感よりも距離を生んでしまうため、注意が必要です。
きずなを深めるSNSファンマーケティング実例
Instagramで共感と信頼を育む
洋菓子メーカーのモンテールは、季節ごとのキャンペーンでユーザー投稿を活用した施策を展開しています。
シュークリームやタルトにフルーツやクリームをデコレーションし、「#モークリームDECO」や「#タルトアート」といったハッシュタグをつけて投稿してもらう企画が話題となり、特にハロウィンシーズンなどに盛り上がりを見せました。
ユーザーの投稿を企業が紹介することで、参加型の楽しさが生まれ、ブランドへの愛着を深めるきっかけにもなっています。
レトルト食品メーカーのにしき食品では、「#NISHIKIYAKITCHEN」というハッシュタグを通じて、ユーザーが投稿したレトルト食品の写真をECサイトでも紹介。食欲をそそる楽しい食卓の雰囲気を購入検討中の顧客に届け、思わず手に取りたくなるきっかけを生み出しています。
LINE公式アカウントで“日常の接点”をつくる
病院を受診しようとする時、受付には長い行列ができていたり、電話がつながりにくかったり──そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。また、バスを乗り継いで病院に着いたものの、臨時休診で診察が受けられなかった……というケースもあります。
こうした経験は、患者さんの利便性を損ねるだけでなく、通院そのものをためらわせる要因となり、患者離れの原因にもなりかねません。こうした「不便さ」や「時間のロス」を解消する手段のひとつが、LINE公式アカウントの活用です。
福岡市立こども病院では、電話予約をLINEに切り替えることで業務負担を大幅に軽減し、保護者からも「使いやすい」「便利」と高評価を得ています。
LINE公式アカウントでは、以下のような機能が活用可能です。
- 予約の受付・変更(自動応答も対応可能)
- 休診日やキャンペーンの情報発信
- リマインド通知(来院忘れ防止)
- 混雑状況や待ち時間の配信
- チャット形式での簡易問い合わせ対応
UGCを活かした共創型ファンマーケティング
UGC(User Generated Content)とは、ユーザー自身が作成・投稿したコンテンツを指します。企業の公式発信よりも、実際に商品やサービスを使っている生活者の声の方が信頼できると感じる人も多く、購買判断やブランドイメージに大きな影響を与えます。
にしき食品の事例
先述のにしき食品は、#NISHIKIYAKITCHEN のハッシュタグをつけて投稿されたユーザーの調理例・食卓風景をECサイトに掲載しています。ユーザーのリアルな暮らしの中で商品が活用されている様子を紹介することで、共感や購買意欲を自然と引き出すUGC活用の好例です。
キャンパルジャパン(小川テント)の事例
キャンパルジャパンでは、ユーザーが考案したテントの畳み方「屋根畳み」がSNSや口コミで広まりました。屋根畳みとは、ロッジ型テントのフライシートを一度も地面に下ろすことなく、フレームの上にかけた状態のままで畳む方法です。従来の方法では、撤収時に地面が濡れているとフライシートが汚れやすいという課題がありましたが、屋根畳みを使えば地面との接触を避けられるため、撤収が格段にスムーズになります。
このユーザー発のアイデアはYouTube動画で拡散され、キャンパーたちの間で話題に。現在では実店舗のスタッフが来場者に教えるほど浸透しています。まさにUGCがユーザー同士の価値共有を促進し、メーカーの発信と調和する形でブランド理解を深める役割を果たした好例といえるでしょう。
UGC活用時の注意点
- 必ず許可を取る:DMやコメントで転載許可を取る。無断使用は厳禁
- 真偽を確認する:不正確な情報が含まれていないかチェック
- 感謝を伝える:「素敵な投稿をありがとうございます」など一言添える
炎上リスクに備えるファン対応の工夫
SNSは便利なツールである一方、リスクも伴います。しかし、日頃の配慮によって問題の発生を抑えることは可能です。ここでは、炎上を防ぐための注意点と、万一炎上してしまった際の対応をご紹介します。
- センシティブなテーマ(政治・宗教・社会問題など)には慎重に対応する
- 投稿前に第三者の目で内容を確認し、誤解や不快感を与える表現がないか見直す
- 批判的なコメントには誠実かつ冷静に対応する
- 自社の価値観とターゲットユーザーの感性とのズレがないか常に意識する
- 「まず謝る」より「まず確認する」。誠意ある初動が炎上予防につながる。ただし、不快にさせたことや不安にさせたことには、きちんと気持ちを受け止めて寄り添う姿勢を見せる
炎上対応の明暗を分けた2つの実例
成功例:ハンバーガーチェーンA社の場合
投稿内容への批判が集中し炎上の危機に直面した際、事実関係を迅速に公表し、誠実な謝罪と改善策を提示。SNS対応の見直しも図り、ユーザーとの信頼関係を維持しました。
失敗例:焼肉チェーンB社の場合
提供した食品が原因で健康被害が発生した際、下請けに責任を押し付け、自社の説明を避けたことで「責任逃れ」と見なされ炎上。結果的に全店舗を閉鎖し、事業継続も困難となりました。
炎上時の対応ポイント
NG対応 | OK対応 |
---|---|
コメントの削除や無視 | まずは迅速に「確認中」の一報を出す |
感情的な反論 | 冷静で誠実なトーンを保つ |
下請けや担当者への責任転嫁 | 自社としての責任範囲を明確にし、対応方針を共有する |
とにかく謝るだけの姿勢 | 不快にさせた点は謝罪しつつ、事実を調査した上で説明する |
共感マーケティングの“次の一手”──クローズドSNSという選択肢
オープンなSNSは共感を得やすい一方で、炎上や誤情報の拡散といったリスクもあります。そこで注目したいのが、限られた顧客とつながる「クローズドSNS」です。
クローズドSNSのメリット
- 安心して語り合える限定空間
- 雑音が少なく、濃密な交流が可能
- 本音のフィードバックが得られる
- UGCやレビューを資産として蓄積しやすい
ファンを育てたい。つながりを強くしたい。そう考える中小企業にこそ、“クローズド”を検討する価値があります。
まとめ
Instagramでの共感投稿、LINEでの密なつながり、UGCの活用──SNSは中小企業にとって、ファンと信頼関係を築くための強力な手段です。
さらに深い関係性を築くには、クローズドSNSの導入もひとつの選択肢。共感を土台とした安心の空間を提供することで、ファンは“応援者”から“仲間”へと変化していくでしょう。
次回テーマは、ファンの声を商品開発に活かす共創マーケティングの実践法についてを予定しています。クラウドファンディングやSNSの投稿を通じて、ユーザーと一緒に商品をつくる仕組みや、実際にファンとの共創によって生まれた成功事例をご紹介します
(アイキャッチ画像:Designed by Freepik)
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