
「ファンを増やしたいけれど、最初のひとりがなかなか見つからない」。 そんな悩みを持つ中小企業に向けて、ファンと共にブランドを育てていくための考え方と実践事例を紹介します。
目次
ファンマーケティングとは何か?
前回までの記事で、大量の広告費で一気に拡大を狙う従来型とは異なり、ファンマーケティングは、共感・関係性・共創を軸にじっくりとブランドを育てていくアプローチであることをご説明しました。
「売る」より「関係を育てる」マーケティングへ。 一度買ってくれたお客様とどう関係を深めるか。継続して選ばれ続けるにはどうしたらよいか。答えは、商品の背景や開発の思いを共有し、「一緒に育てる」姿勢を持つことにあります。
そうはいっても、ファンの行動を企業がコントロールすることはできません。どのようにアプローチすれば、ファンは一緒にブランドを育ててくれる「仲間」になってくれるのでしょうか?
近年『ファーストフォロワーのつくりかた』(高橋寛寮 著/翔泳社 刊)が発行された背景には、ファンとの関係性に悩む企業が少なくないという現状があるのでしょう。
『ファーストフォロワーのつくりかた』から学ぶ視点
書籍『ファーストフォロワーのつくりかた』は、最初に共感を示してくれた“仲間”=ファーストフォロワーの重要性を説いています。
ファーストフォロワーは、単なる初期の顧客ではありません。ブランドや製品のストーリーに共感し、SNSや口コミを通じて価値を広げてくれる存在です。企業が一方的に発信するのではなく、ファンとともに価値を発見し、伝えていく。この共創の姿勢こそがファンマーケティングの本質です。
書籍では、16社の事例を通じて、各社がどのように最初の支持者と出会い、関係を深め、ファンとの共創を通じてブランドの価値を社会に伝えていったかが詳しく解説されています。
例えば、初期のファンに開発段階から参加してもらい「一緒に商品をつくる」ことで熱量が生まれた事例や、特別な体験やストーリーテリングを通じて支持者のロイヤルティを高めていった企業も登場します。
これらの企業に共通するのは、ファーストフォロワーを「顧客」ではなく「仲間」として捉え、単なる販促ではなく、長期的な関係性の中で価値を育てている点です。
『ファーストフォロワーのつくりかた』は、ファンマーケティングの実践的な指南書として非常に参考になります。ファンとのよりよい関係性を模索中なら、手に取ってみる価値があるでしょう。
ですが……。
「そのファーストフォロワーと、そもそも出会えていない」 という企業も少なくありません。
最初のファンと出会うために必要なこと
ファンがいない状態から始める中小企業にとっては、最初の共感者に出会うまでが大きな壁となります。
そのような時期に大切なのは、まず自分自身が「その価値をまっすぐに信じている」という姿勢です。商品やサービスを誰よりも理解し、「これが好きだ」「誰かに届けたい」と思えること。それが自然と伝わる発信を生み、共感のきっかけになります。
愛されるブランドには、自分の魅力や背景にあるストーリーを伝える力があります。人同士の関係と同じで、「愛されるには、自分のことをちゃんと好きでいること」。——それが、ファンづくりのスタートラインです。
最初の「ファン」を獲得するための実践ポイント
- 自分が最初のファンであるという気持ちを忘れない
- 自分たちが「何を大切にしているか」を言葉にして発信する
- ターゲット(誰に届けたいか)を明確にする
- 完成された商品だけでなく、開発の過程や悩みも共有する
- 小さなリアクションや応援の声を見逃さず、丁寧に反応する
- SNSやクラウドファンディングなど、共創の入り口を用意する
- 「売る」のではなく、「仲間になってもらう」姿勢で接する
ファンと共にブランドを育てた3つの事例
NANGA(滋賀県)
NANGAが本社を構える滋賀県の米原市は、「近江真綿」として知られる布団の産地です。NANGAの前身である横田縫製は、布団の縫製に始まり、ダウンジャケットのOEM生産に事業を拡大していきました。
長年にわたって蓄積してきたダウン製品の加工技術を活かし、自社ブランド「NANGA」を立ち上げたのは1990年代半ば。同社は寒冷地遠征にも対応する高品質なダウンシュラフ(寝袋)を中心に展開し、登山・アウトドア愛好家の間で「知る人ぞ知る」ブランドとして存在感を高めていきました。
その後、クラウドファンディングを活用した新製品開発や、アウトドアショップとのコラボレーションなど、ファンとの接点を拡大。Makuakeでは寝袋とマットのセットが想定を超える反響を得て、消費者との共創が販路拡大にもつながりました。今では「寝袋といえばNANGA」と呼ばれるほど、確固たるポジションを確立しています。
同社はまたサステナブルな活動の一環として、羽毛をリサイクルして新しい羽毛布団を製造する取り組みも行っています。不要になった羽毛布団を回収・洗浄・再精製し、保温性に優れた新たな製品として生まれ変わらせる「Re:ACT」は、資源循環と製品価値の両立を実現しています。2025年には再生羽毛を用いた掛け布団や防災寝袋「SONAE BAG」も登場し、機能性と環境配慮の両面から注目を集めました。
NANGAのファンマーケティングの特徴:
- SNS(Instagram・Facebook・YouTube)を活用した情報発信とファンとの交流
- インフルエンサーや他ブランドとのコラボによる話題性の創出
- クラウドファンディングでの共創型商品開発
- ファンとの接点を意識したコラボ展開
- 羽毛リサイクル事業「Re:ACT」によるサステナブルな共感づくり
山と道(神奈川県)
鎌倉を拠点とする山と道は、ウルトラライトハイキング(UL)という登山スタイルに魅せられた夏目夫妻が2011年に立ち上げたブランドです。創業当初から「自分たちが欲しいものを、自分たちの手で作る」という姿勢を貫き、最初のバックパックを完成させるまでに2年を費やしました。
製品はSNSや口コミを通じて広まり、ファンとの交流を通じて改良を重ねてきました。特に注目すべきは「HLC(Hiker’s Learning Community)」という地域ごとの活動拠点を設け、学びやつながりの場を提供していること。イベントやワークショップを通じてファンがハイカーとして成長する環境をつくり、ブランドの世界観に共鳴する人々との共創が今も続いています。
山と道のファンマーケティングの特徴:
- 創業者自身が“最初のファン”という出発点
- 開発ストーリーを丁寧に発信し、共感を呼ぶ
- 公式サイト、Instagram、ジャーナルで多面的に発信
- 地域ごとの「HLC(Hiker’s Learning Community)」を通じたリアルな接点づくり(※HLC:ハイク・ライフ・コミュニティをテーマに、全国のファンと共に学び合う地域拠点型プロジェクト)
- ファンと共に成長する姿勢がブランド価値に
シルクふぁみりぃ(奈良県)
奈良県の地場産業である靴下の販売からスタートしたシルクふぁみりぃは、シルク素材のインナーを中心とした衣類ブランドとして成長してきました。現在では、冷え取り靴下や肌に優しいインナー、トップス、ボトムス、スヌードや腹巻きなど、肌に直接触れる商品を中心に幅広く展開しています。
同ブランドは、もともと肌が弱かった創業者自身の「ゆったりとした天然素材の製品がほしい」という想いからスタートしました。現在も「自分が欲しい製品を、自分の買える価格で販売したい」というポリシーを貫いており、商品ラインナップにもその姿勢が色濃く反映されています。
特徴的なのは、公式サイトからリンクしている「店主ブログ」です。製品開発の進捗や悩み、素材の紹介、編み立てや縫製工場とのやり取りなどが丁寧に綴られており、改良を重ねながら完成に至るプロセスを、読者と一緒に体験していくような形で共有しています。新しい商品が発売される際には、その背景を知っている読者が「やっと出たんだね」と一緒にワクワクできるような、あたたかい関係性が育まれています。
さらに、製品に寄せられたユーザーの声も、良い評価だけでなく、時には批判的な意見も含めて紹介しています。その声に真摯に向き合い、改善や再考を重ねる店主の姿勢は、ブランドに対する信頼感にもつながっています。
シルクふぁみりぃのファンマーケティングの特徴:
- 「自分が欲しい製品を、自分が買える価格で」という姿勢で、ユーザーと「仲間」としてつながる
- 店主ブログで開発の過程を丁寧に共有
- ユーザーの声を積極的に紹介
- 批判的な声にも誠実に向き合い、改善につなげる姿勢を見せる
まとめ:最初のひとりは、あなたの隣にいるかもしれない
ファンマーケティングは、特別な予算や人脈がなくても始められます。 必要なのは、自分自身がブランドのファンであるという熱量、「共感される姿勢」、そして小さな反応にも耳を傾ける真摯さ。
最初のひとりと出会うこと。 それがファンマーケティングの出発点といえるかもしれません。
次回は、ファンの声を製品開発に活かす共創マーケティングをご紹介します。
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